躍女とおしゃべり1

2021.08.25

白樺湖・蓼科・女神湖、茅野市から立科町へとまたがるこのエリアは 古くから人気の観光エリアです。ホテルやペンション、オーベルジュにゲストハウス。 さまざまなスタイルの宿泊施設があり、そこでは子育てをしながら働く女性も増えています。 子育てや家事と仕事の狭間に立たされる女性たちの思いを2日間に渡って伺いました。

まずは第1日目。会場は蓼科にある「TINY GARDEN」です。雨上がりの澄み渡った青空のもとで、開放感あふれる座談会となりました。

参加者プロフィール紹介

鈴木ウナさん(以下:鈴木) 茅野市玉川でゲストハウス・カフェ「コミン家」経営。韓国生まれで、高校生のときにカナダに移住し23年前に日本人の夫と結婚して日本に移住。2018年に夫と子どもとともに茅野に移住してゲストハウスを始める。

寺澤紗弥果(以下:寺澤) 蓼科中央高原の標高1550mでオーベルジュ・テラを夫ともに経営。シェフとして地元の食材を生かした料理を作っている。

榎本実可子さん(以下:榎本)北海道出身。「トヨタ車体蓼科山荘」従業員。諏訪市在住のため毎日通勤は少し大変。山ん家に登録して家庭と仕事を両立を目指す。

伊藤菜歩さん(以下:伊藤)愛知県出身。車山のペンション「ベストフレンド」を、夫や義父母とともに経営をしている。小学生の男の子2人を子育てている。

玉岡勇樹(以下:玉岡)白樺湖畔のゲストハウス「ホステル・ジル白樺湖」経営。2018年に前オーナーさんから受け継ぐ。

水野さとこさん(以下:水野):新潟県出身。車山で「オーベルジュ・ラ・メイジュ」を経営し、ソムリーエルを務める。山ん家メンバー。

粟野りょうすけさん(以下:粟野):元茅野市の地域おこし協力隊。現在は原村に在住。「タイニーガーデン」勤務。お客様の多様性を受け入れながら実験的に活動。

菊池直美さん(以下:菊地)蓼科中央高原でグリーンシーズンのみの宿「木こりん」を経営。ツーリング客に人気。冬はスキーやスノーボードを毎日やって過ごす。

大自然と心地よい距離感に包まれて

Qこの地で暮らし、仕事をしてよかった点はなんですか?

鈴木:愛知から移住してきましたが、空気がきれいなことに感動しています。自然の豊かさ、木がたくさんあって水がきれい。そうしたすべてのことがこのきれいな空気を作っていると思います。おいしい空気に感謝感謝!

茅野に来て、近くに畑を借りたんです。私、鍬を持つのも初めてだったんですが、近所の方が丁寧に教えてくれたり苗を譲ってくれたりしました。都会とはまったく違う心地よい距離感で近所の方から見守っていただけるなと感じています。

菊池:観光地でありながら生活圏でもあることです。我が家は蓼科中央高原というところで、標高は1100m。小学校までは歩いてはいけないけど車で5分、コンビニまでも歩いてはいけないけれど車で7分、スーパーも車で10分くらい。病院も7分、大きい病院も15分あればいけるっていう環境です。移住するときに、学校やスーパーが近く、生活が不便すぎないところを探しました。

うちは近くに身よりもないのですが、小学校が小さいというのもあって、子どもたちはもちろん保護者同士もとても仲がいいんです。宿泊業なので、朝の食事の時間に送迎ができないことがあるときなど、近所の人が乗せていってくれたりしてくれて助かっています。人のあたたかさに感謝ですね。

榎本:私出身が北海道なんです。よく、北海道とここは似てるでしょ?って言われますが、あちらは自然過ぎてリゾート的な部分がまったくない。自然を楽しむ余裕がありませんでした。

こっちの方が一年を通して過ごしやすいし、都会の人がわざわざお金と時間をかけて遠くまで求めて来るところがすぐそこにある。お金をかけずにお手軽に高級リゾートを味わえるのが魅力ですね。仕事中は室内にいることが多いですが、モヤモヤしたり疲れたりしたら職場の中庭を歩くだけでもリフレッシュできます。

玉岡:「空・山・湖」 どれもいいですね。うちの宿は湖畔にあるので、窓からの空と山と湖の眺望がいいんです。グリーンシーズンには湖の上にカヌーが見えて、カヌーからは山々を望めます。霧ヶ峰の方にいけばグライダーが飛んでいたり、宿から20分圏内にスキー場がたくさんあるので、冬はスキーも楽しめたりもします。四季折々季節ごとにレジャーが多いので、さまざまな目的のお客さんが来られる。そういう方々と季節ごとに違う話ができるのが本当に楽しいです。

粟野:ここにきてまず他と違うなと感じたのは「距離感」です。ここに来る前は別の土地にいたこともありますが、東京から遠いことと、人とのつながりが薄く感じて、僕の中ではずっと暮らしたい場所にはならなかったんです。

その点ここは全体的に距離感がいいなあと思っています。東京からのアクセスはもちろん、山が好きなので、お迎え前に八ヶ岳ちょっと登ってきます! とかもできますし、移住者も多いので、気軽に相談できる相手がたくさんいるのがいいです。

水野:ここで暮らして、家族の生きる力が強くなったと思います。うちは夫がシェフで、冬はジビエもやっているので家で鴨やシカを捌くことがあるんです。小学生の息子がいますが、最近カモやシカを見ると「おいしそう」っていう言葉が出るんです。この地にいて食材が生きている。それをおいしそう、って思えるのは生きる力だなと嬉しくなります。

山菜など食べられるものを探してきて、「これ食べられる?」と聞いてくれたりすると、たくましく育ってくれているなと感じますね。

伊藤:私は愛知県出身なんですが、あちらは湿気もあって暑いんですよね。特に海側だったので汗でべたつく暑さなんです。こちらに来て初めての夏は、こんなに涼しいものなのか! と感動しました。冬の方が雪かきなんかで汗をかくくらいなのもびっくりしました。夏はもう愛知には帰れないです(笑)。

寺澤:シェフをやっているので、季節によって日々変わっていく食材もいろいろ使えるのは魅力だなと思っています。あるものすべてが新鮮で、おいしいものがたくさん使えるのが魅力です。お魚は迷うところでしたが、最近長和町でチョウザメの養殖を成功させた方に出会えたんです。チョウザメは普通キャビアをとるだけなんですが、そこではきれいな水で育てていることから身も食べられるということで取り入れるようになりました。そういった生産者さんとのつながりもここで仕事をしてよかったことのひとつです。

観光地で暮らし、働き、子どもを育てるということ

Q大変なところや、この地域が「もっとこうなればいいな」と思うことはありますか?

伊藤:車山でペンションを家族経営していますが、自宅が仕事場なので、家事育児と仕事が場所が一緒で切り離せないことが大変でした。最初は全部できて当たり前、全てを両立しないといけないって思っていたんです。奥さんとして、母親として、ペンションの女将としてという役割が同じ場所の中でゴチャゴチャになってプライベートとの切り替えが大変でした。

でもそんなとき、仕事柄いろいろな人と交流できるのは強みですね。県外の人やいろいろな仕事、いろんな家族構成の人の話が聞けるのはとても楽しいです。

粟野:うちの会社で働いている女性で考えてみると10時〜15時の限られた時間の中で勤務して実力を発揮しているのがすごいなと思いました。

うちはもう少しで3人目が産まれるんですが、この間上の子たちを家で見ながら仕事することがあったんです。たまにのことなのに、子どもたちは騒いでるし、仕事は進まないし、「なんなんだ!」ってなりました。見えてないところが多かったな、妻に感謝しなきゃいけないなって思いました。

水野:自然が変わらず、人がのんびりしにきてくれる場所であり続けて欲しいなと思います。

寺澤:子育てがしやすい環境整が進むといいなと思います。うちは私がシェフなので、基本休日の学校行事には参加できませんし、PTA役員などもできないため気がかりです。

例えば上高地では、子どもの行事を平日にするとか時期をずらして親が参加できるようにしているそうなんです。これだけ観光業が多い地域なので、繁忙期や土日をずらした行事もあるといいかもしれません。

あとバスですね。バスも今通ってはいるんですが、お客さんが利用するにも子どもたちが登下校などで使うにも時間が合わないんです。バス代の補助が出てもいるんですが、バスが使いやすいように調整してもらえるといいと思います。

鈴木:みなさんそれぞれ、がんばっているので、そういった人が「ネットワーク」でつながれたらいいと思います。いろんな業種の人が集まって意見交換をしながら、発信したり行政に持っていったりしたらいいかなと思います。

業種や家族によってそれぞれ悩みがあると思うので、それをシェアしながら学び合っていければいいなと思いました。

菊池:宿泊業をしていると、子どもの送迎は時間的にも難しいときが多いので、通学バスが欲しいです。

あともう一つ「休耕地の太陽光発電への転換」が問題になっています。借地のところは地主さんが代替わりするタイミングで手放したい方も多くて、買い手を探している。そのときに太陽光が選択肢に上がることが多くて、うちの周りも太陽光発電が目立つようになってきました。でも私だけの力ではなんともならないし、どうにかなるといいなあって思います。

伊藤:車山のペンションは開拓されて40年になります。そうした時期にペンション経営を始めた方たちが代替わりの時期を迎えています。中には後継者がいなくて、廃墟みたいになって残ってしまっているところもあるんです。そういう所に新しい人、新しいパワーが入ってきたら「宿泊業が賑わっていく」のではと思っています。

榎本:出産前から今の職場で働いていますが、産後復帰するのはとても大変でした。私も夫も県外出身なので近くに祖父母や親戚がいません。子どもを預ける場所を探して役所にも何度も足を運びましたが、継続的に土日祝日に子どもを預かってくれる所はなかなかありませんでした。転職しなくてはいけないかもしれないと考えましたね。山ん家さんのようなところが増えたり、他の観光業の方と関わりが持てたりしたらいざというときに協力しやすくなるのではと思います。

玉岡:先ほど通学バスの話も出ましたが、全体的に交通の便が良くなるといいですね。今も白樺湖までのバスはありますが、どういうわけか土日に本数が減るんです。観光地なのに14:00、15:00がバスの最終便になってしまうので、交通手段がないから来られないという人がいると思うんです。

実験的に運行があったこともあったと聞きましたが、周知の時間や方法に難があって成果が得られなかったと聞いています。きちんと準備をしてみんな利用できるようにしていけたらと思います。

話して、聞いて、明るい未来のために

玉岡:声かけいただいて、紙を見て、会議室のようなところでやる話し合いかな? ってプレッシャーを感じたんですけど、芝生でやるんだと思って気楽に話せました。ありがとうございます。

榎本:普段こういう悩みを話す機会がなかったので、参加させてもらっただけでも日々のモヤモヤが少し晴れました。同業者の方々とお話ができたことで、今の仕事をしているのは間違いじゃなかった。やっててよかったと思えました。

粟野:普段は日々の業務を優先して、課題や何かを曖昧にしたままにしてしまっていたのでいい機会でした。立場上会社の外に出ることも多いので、次の機会には中で働いている人や女性スタッフにも出てもらえたらいいなと思います。

水野:同業だけれど少しずつやってることや環境が違って、でも自然が好きという共通点もある人がざっくばらんに話せてすごく楽しかったです。またこういう機会をたくさん作っていけるといいなと思います。

【まとめ】

前日までの雨も上がり、雨に洗われた青空とみずみずしい芝生という絶好のシチュエーションで開催することができました。その開放的な雰囲気も手伝って、参加者も緊張を感じることなく時折笑い声も聞こえるくらいなごやかに進みました。子育てや仕事の悩みを言葉にし、それを聞いた人が「そうそう!そうだよね!」と共感する。課題解決にはまず課題を認識するところから、そんな大きな第1歩を感じられる時間となりました。